外国人を採用したいが、どの在留資格で働けるのか、どんな手続きが必要なのか分からない――そのような企業担当者向けに、採用から退職までの流れを整理します。
札幌市北区の小原行政書士事務所が外国人雇用・在留資格手続きに対応します。
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少子高齢化に伴う労働力不足を背景に、多くの企業で外国人材の活用が進んでいますが、外国人を雇用する場合、日本人を雇用する際にはない「入管法(出入国管理及び難民認定法)」などの厳格な法的ルールが適用されます。
これらを理解せずに採用を進めると、意図せず法令違反を犯してしまったり、採用した人材がすぐに離職してしまったりするリスクがあります。
本記事では、これから外国人の雇用を検討している、または既に雇用している企業の担当者様に向けて、採用から退職に至るまでに押さえておくべき「基本と実務」を体系的に解説します。
1. 外国人採用の第一歩:制度の基本と採用ルート
外国人雇用を成功させるには、まず基本となる制度の仕組みと、採用ルートごとの手続きの違いを理解する必要があります。
「ビザ」と「在留資格」の違い
日常的に「就労ビザ」という言葉が使われますが、制度上「ビザ(査証)」と「在留資格」は明確に異なります。
- ビザ(査証):海外にある日本の在外公館(大使館等)が発行する「日本への入国推薦状」のようなもので、入国のための「鍵」です。
- 在留資格:入国後に法務省(出入国在留管理庁)が付与する、日本で滞在・活動するための「法的な資格」です。
企業が実務上管理すべきなのは、後者の「在留資格」です。外国人は、許可された在留資格の範囲内でしか日本で活動(就労)することができません。
採用ルートによる手続きの違い(国内採用 vs 海外採用)
採用する外国人が「現在どこにいるか」によって、手続きのハードルと所要期間が大きく異なります。
- 国内採用(すでに日本にいる外国人を雇う場合) 留学生や国内の転職者を採用するケースです。現在の在留カードを確認し、自社の業務内容に合った在留資格へ「在留資格変更許可申請」を行うか、同じ資格のまま期限を延長する「在留期間更新許可申請」を行います。手続きは比較的スムーズですが、留学生の場合は「留学」から就労系資格への変更が必須となります。
- 海外採用(海外から新たに呼び寄せる場合) 海外にいる優秀な人材を直接採用するケースです。企業側が日本の入管に対して「在留資格認定証明書(COE)交付申請」を行い、許可が出た後に本人が海外でビザを取得して来日します。この手続きには通常1〜3ヶ月程度の審査期間を要するため、余裕を持った採用計画が必要です。
就労できる業務の境界線
在留資格には「就労制限がないもの(永住者や日本人の配偶者等)」と「特定の業務のみ就労できるもの(技術・人文知識・国際業務、特定技能など)」、そして「原則就労不可のもの(留学、家族滞在など)」があります。 特に「技術・人文知識・国際業務」等の就労資格では、専門性のない単純労働は認められないため、自社の業務内容が資格に適合しているかの事前確認が不可欠です。
2. 雇用前の必須確認:コンプライアンスと不法就労防止
外国人雇用において企業が最も注意すべきなのが「不法就労助長罪」のリスクです。
不法就労助長罪とは
外国人に不法就労をさせたり、あっせんしたりした場合、企業側にも刑事罰(3年以下の懲役又は300万円以下の罰金)が科される可能性があります。 重要なのは、「知らなかった」では済まされないという点です。在留カードの確認を怠るなどの過失があった場合、処罰の対象となり得るため、厳格な確認体制が求められます。
在留カードの確認ポイント
採用面接の段階で、必ず原本の「在留カード」を確認し、以下の点をチェックします。
- 在留資格の種類と期限:自社の業務ができる資格か、期限が切れていないか。
- 就労制限の有無:表面に「就労不可」や「在留資格に基づく就労活動のみ可」等の記載を確認します。
- 資格外活動許可の有無:留学生などをアルバイトとして雇う場合、裏面の資格外活動許可欄を確認し、「週28時間以内」という就労時間制限を厳守する必要があります。これをオーバーして働かせると不法就労となります。
社内チェック体制の構築
これらのリスクを防ぐためには、現場の担当者任せにするのではなく、組織的なチェック体制の構築が必要です。採用時の在留カード確認ルールの徹底、在留期限の期日管理アラートの導入など、継続的に適法性を担保する仕組みづくりが企業の責任(コンプライアンス)として求められます。
3. 雇用条件・契約・コストの実務
「外国人は安く雇える」というのは過去の誤った認識であり、現在では法令違反に直結する危険な考え方です。
日本人と同等の待遇と労働法令の適用
日本国内で働く以上、外国人にも労働基準法や最低賃金法などの労働関係法令が完全に適用されます。国籍を理由とした賃金や待遇の差別は法律で禁止されています。 また、就労系の在留資格では、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬であること」が許可の要件となっているケースが多く、不当に安い賃金を設定すると在留資格自体が許可されません。
雇用契約書と入管審査
外国人と結ぶ雇用契約書(または労働条件通知書)は、入管の審査において非常に重要な書類となります。職務内容、雇用期間、報酬額、労働時間などが具体的に記載され、それが申請する在留資格の要件に合致しているかが厳しく審査されます。また、実務上は「本契約は適切な在留資格の許可が得られた場合に効力を生じる」といった停止条件を盛り込むことが一般的です。
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いへの意識
日本の伝統的な「メンバーシップ型雇用(職務を限定せず柔軟に配置転換を行う)」の感覚で外国人従業員を扱うと、トラブルになることがあります。在留資格は特定の活動(職務)に対して許可されているため、資格の範囲を超えた配置転換を行うと不法就労になるリスクがあります。職務範囲が明確な「ジョブ型雇用」の考え方を取り入れ、業務内容を事前に明確化することが定着と法令遵守に繋がります。
外国人雇用にかかるコスト構造
外国人雇用には、日本人雇用と共通のコスト(給与、社会保険料など)に加えて、特有のコストが発生します。
- 法定費用:在留資格の変更や更新にかかる印紙代など。
- 専門家報酬:行政書士等への申請代行費用。
- 支援費用:「特定技能」の場合の登録支援機関への委託費や、生活・住居確保のサポート費用など。 これらのコスト構造を事前に把握し、採用計画に組み込むことが重要です。
4. 現場での配慮と定着支援
採用後の定着率を高めるためには、職場の受け入れ環境の整備が不可欠です。
宗教や文化への配慮
言語だけでなく、宗教や文化の違いによる習慣(礼拝の時間、食事制限、祝日の過ごし方など)を理解し、業務に支障のない範囲で柔軟な配慮(休憩時間の調整や礼拝スペースの確保など)を行うことが、相互理解と信頼関係の構築に役立ちます。
通訳が置けない場合のコミュニケーションの工夫
「通訳を配置する」法的な義務はありませんが、労働条件や安全衛生ルールを「本人が理解できる形で伝える」ことは企業の安全配慮義務にも関わります。 通訳が常駐できなくても、以下のような工夫で対応可能です。
- 「やさしい日本語」の活用:難しい漢語や専門用語を避け、短く簡潔な日本語を使う。
- 視覚情報の活用:図解、イラスト、写真を使ったマニュアルで直感的に伝える。
- 多言語書面と翻訳ツールの補助的利用:重要な労働条件は母国語を併記した書面にし、日常の指示には翻訳アプリを補助的に使う。
5. 退職時の手続きとリスク管理
外国人従業員が退職する際、日本人と同様の雇用保険・社会保険の資格喪失手続きに加えて、外国人特有の行政手続きが発生します。
行政への届出義務
- ハローワークへの届出:雇入れ時と同様に、離職時にも「外国人雇用状況の届出」を行う義務があります。
- 出入国在留管理庁への届出:外国人本人は、退職から14日以内に入管へ「所属機関等に関する届出」を行う義務があります。また、在留資格によっては企業側にも入管への届出義務が生じる場合があります。
本人への手続き案内とサポート
退職の手続きは、外国人本人にとって非常に複雑です。企業側から、14日以内の入管への届出義務について案内してあげることが望ましいです。 また、就労系の在留資格では、退職後に在留資格に対応する活動を正当な理由なく3か月以上行っていない場合、在留資格取消しの対象となることがあります。
さらに、日本で年金保険料を納めていた外国人が帰国する場合、条件を満たせば「脱退一時金」として保険料の一部が返還される制度があります。こうした制度の存在を助言してあげることは、外国人労働者の不利益を防ぐ企業としての誠実な対応と言えます。
まとめ
外国人雇用は、単なる「人手不足の穴埋め」ではなく、企業に多様な視点と活力をもたらす重要な経営戦略です。しかし、そのためには「在留資格の厳格な管理(コンプライアンス)」と「異文化を前提とした労務管理や定着支援」という両輪を回していく必要があります。
採用前から退職時に至るまでの手続きとルールを正しく理解し、自社だけで抱え込まずに必要に応じて行政書士等の専門家と連携しながら、適法かつ魅力的な職場環境を構築していきましょう。