はじめに
中小企業の現場では、「人がいない」「採用しても定着しない」といった声を耳にすることが少なくありません。一方で、同じ業種・同じ地域でも、状況が大きく異なる場合もあります。
本記事では、「人手不足」という言葉を感覚的に扱うのではなく、公式統計等で確認できる指標の位置づけを踏まえつつ、中小企業が“本当に困っていること”を整理する視点を提示します。あわせて、採用(人材確保)以外で検討される対応策についても、実務上の考え方を丁寧にまとめます。
1.中小企業における「人手不足」という認識
1-1.よく聞かれる現場の声
「人がいない」という言葉は、次のような状態をまとめて表現していることが多いと考えられます。
- 求人を出しても応募が少ない(または来ない)
- 応募があっても採用に至らない
- 採用できても短期間で離職する
- 経営者・管理職の負担が増えている
- 残業や休日対応が常態化している
ただし、「人がいない」という表現の背景には、人員数そのものの不足だけでなく、業務量・業務設計・配置の問題が含まれる場合があります。
1-2.「人がいない」と感じる状況の整理
たとえば、次のように“困りごと”を分解すると、課題の見え方が変わります。
- 量の問題:業務量が増え、単純に手が足りない
- 質の問題:必要なスキル・経験を持つ人材が不足している
- 設計の問題:業務の属人化や非効率で、少人数だと回らない
- 継続の問題:離職が続き、教育・引継ぎが追いつかない
この整理は、次章以降の「背景」や「対応策」を考える土台になります。
2.人手不足の背景にある要因
2-1.労働市場の状況を示す指標と、その見方
人手不足の議論では、しばしば有効求人倍率などが参照されます。ただし、有効求人倍率は「人手不足の状態を表す」と説明される一方で、ハローワークを経由した求人・求職に限られるなど、指標の性質に注意が必要です。そのため、状況把握の際には、完全失業率もあわせて確認する必要があります。
また、労働市場を語る際に用いられる「労働力人口」等の用語には定義があります。たとえば、総務省統計局の解説資料では、労働力人口は「就業者と失業者を合わせたもの」と整理されています(調査・集計区分により定義の扱いが異なる点も記載があります)。 統計局
2-2.中小企業側の構造的要因として整理されやすい点
中小企業庁「中小企業白書」では、中小企業の経営上の問題点として「求人難」が深刻化していること等が示され、人材確保が重要な経営課題として位置づけられています。
一方で、現場の実情としては(公式統計だけでは測りにくい部分も含め)、次のような点が複合して課題化しやすいと整理できます。
- 採用競争における情報発信力・条件提示の難しさ
- 教育・引継ぎ体制が十分に整備できない
- 管理部門が兼務中心となり、制度整備が後回しになりやすい
- 属人化により、欠員の影響が大きくなりやすい
これらは企業ごとに差が大きく、また地域・業種差もあり得るため、一般論としての整理にとどめる必要があります。
3.「人手不足=人が足りない」とは限らないケース
3-1.業務量・業務設計が課題になっている場合
人員数の不足に見えても、実際には次のような「設計」の課題が主因となる場合があります。
- 作業手順が整理されておらず、やり直しが多い
- 承認・確認が増え、意思決定が滞る
- 例外処理が多く、標準化が進まない
- 重要度の低い業務が残り、コア業務を圧迫している
この場合、採用に注力する前に、業務の棚卸し(何に時間を使っているかの把握)が有効な入口になります。
3-2.人材活用・配置のミスマッチが課題になっている場合
人員はいても、次のような状況では「人がいない」と感じやすくなります。
- スキルや経験に対して業務が適合していない(配置のミスマッチ)
- 教育・支援が不足し、立ち上がりに時間がかかる
- 一部の担当者に業務が集中している(属人化)
- 休暇・繁忙期の波に対応する体制がない
この場合、「採用」よりも先に、業務の分担設計や教育・引継ぎの仕組み化を整えることで改善することがあります。
4.人材確保以外に検討される対応策の考え方
ここからが本題です。
人手不足への対応は「採用する」だけではなく、事業を止めないための“体制づくりとして、多面的に考えることが重要です。中小企業庁の「中小企業白書」でも、人手不足への対応として「人材の確保」だけでなく「省力化投資」や「多様な人材の活用」等の観点が扱われています。
以下では、採用以外の対応策を「実務で検討しやすい順序」を意識して整理します。
4-1.最初にやるべき「業務の棚卸し」と優先順位付け
採用に踏み切る前に、まずは現状を整理します。ポイントは次の3つです。
- 業務の全体像を並べる(何を、誰が、どの頻度で、どれくらいの時間で行っているか)
- コア業務/非コア業務に分ける(売上・品質・安全に直結するか)
- やめられる業務/減らせる業務/残す業務を分ける
ここで重要なのは、「忙しいから見直せない」状態ほど、見直しの効果が大きいことがある点です。
また、棚卸しは“現場の感覚”に偏りやすいため、できる範囲で時間・件数などの実績も一緒に確認すると、議論が進みやすくなります。
4-2.業務の標準化・属人化解消(人が増えなくても回る形へ)
人が少ない組織ほど、属人化が進むと欠員の影響が大きくなります。そこで、次の順で「標準化」を検討します。
- 手順書の整備:完璧でなくても、最低限の手順・注意点を残す
- チェックリスト化:判断のばらつきを減らす
- 引継ぎの型を作る:引継ぎに必要な資料・期間・担当者を固定化する
標準化は、採用ができた場合にも効果があり、教育コストの削減や定着率の改善につながることがあります(ただし、効果は企業の状況により異なります)。
4-3.省力化・デジタル化(小さく始めて負担を減らす)
「DX」や大規模システムの話にする前に、“人の手でやらなくてよい作業”を減らすという観点で検討します。たとえば、
- 二重入力・転記・集計などの反復作業の削減
- 請求・見積・勤怠など定型事務の電子化
- 共有フォルダや管理台帳の整理(探す時間を減らす)
注意点として、デジタル化は「導入」より「運用」が課題になりやすいので、次のような進め方が現実的です。
- まずは対象業務を1つに絞る
- 例外処理が少ない領域から着手する
- 現場担当者の“使い方”の負担を見積もる
※助成金・補助金等の制度に触れる場合は、要件・申請手続が制度ごとに異なり、年度や公募時期で変動し得ます。必ず所管官庁・自治体等の公式情報で確認してください(本記事では個別制度の断定は行いません)。
4-4.外部リソース活用(「雇う」以外の人手の使い方)
採用が難しい局面では、次のような外部活用が選択肢になります。
- 業務委託(アウトソーシング):経理・給与計算・記帳、総務の一部など
- スポット支援:繁忙期だけの作業、立ち上げ時の一時的支援
- 専門家活用:契約・許認可・労務など、専門性が高い領域の補完
外部活用の検討では、次の点を事前に整理しておくとトラブル予防になります。
- 依頼する作業範囲(成果物、締切、品質)
- 情報管理(秘密保持、データ取扱い)
- 社内の窓口(指示系統・承認ルート)
※業務委託か雇用かの整理、契約内容の適正化などは、個別事情により判断が変わります。必要に応じて専門家へ相談してください。
4-5.働き方・職場環境の整備(「定着」も人手不足対策)
「採用できない」以前に、「辞めない職場」をつくることが結果として人手不足対策になります。中小企業庁の「中小企業白書」でも、働きやすい職場環境・制度整備等に触れられています。 中小企業庁
実務上は、次のような“できるところから”の整備が現実的です。
- 業務負荷の見える化(偏りを是正)
- 休暇取得・シフト設計の改善
- 小さなルール整備(相談窓口、情報共有の手順、引継ぎルール)
これらは「制度として立派に整える」よりも、継続して回る形にすることが重要です。
4-6.多様な人材の活用(短時間・シニア等)と留意点
人材確保“以外”といっても、既存の雇用の枠を広げる発想は重要です。たとえば、
- 短時間勤務・時間帯限定
- シニア層の活用
- 副業・兼業人材(可能な範囲で)
ただし、労務管理や就業ルールの整備が必要になり得るため、社内体制に合わせて段階的に検討することが一般的です。
4-7.外国人材の活用は「制度理解と適正手続」が前提
外国人材の受入れは、採用戦略の一つとして検討されることがありますが、在留資格制度等の枠組みの理解が前提となります。
どの在留資格が該当し得るか、どの活動が認められるかは、職務内容・雇用形態等により変わり、一律に断定できません。必ず出入国在留管理庁等の公式情報を確認し、個別に検討する必要があります。
まとめ
中小企業の「人がいない」という悩みは、単純な人員不足だけでなく、業務設計や属人化、配置、定着など複数の要因が重なっている場合があります。
また、人手不足を示す指標(有効求人倍率等)には性質上の限界があるため、公式情報に基づき複数の観点で状況を確認することが重要です。
対応策としては、採用だけに頼るのではなく、業務の棚卸し、標準化、省力化・デジタル化、外部活用、職場環境整備などを組み合わせて検討することが現実的です。
制度活用や外国人材の受入れを検討する場合は、要件や運用が個別事情で変わり得るため、必ず公式情報で確認し、必要に応じて専門家へ相談することが望まれます。
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