永住者在留資格の取消しガイドライン案とは|企業・本人が知っておくべき変更点

2026年8月4日、出入国在留管理庁が「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン(案)」を公表し、意見募集(パブリックコメント)を開始しました。永住者に新たに設けられた3つの取消事由の具体的な考え方・想定事例・通報の仕組みを、公式資料に基づいて詳しく解説します。

1. なぜ「取消し」制度が新設されたのか

永住者の在留資格は、これまで「永住許可申請の際に虚偽の内容があった場合」にのみ取消しの対象となっていました。

令和6年(2024年)の入管法等改正(公布:令和6年6月21日)により、永住者固有の取消事由として入管法第22条の4第1項第8号・第9号が追加されました。この規定は、一部の規定を除き令和9年(2027年)4月1日に施行されます。

改正法の国会審議の際、衆議院・参議院で次のような附帯決議がなされました。

永住者に対する永住許可の取消及び職権による在留資格の変更を行おうとする場合には、既に我が国に定住している永住者の利益を不当に侵害することのないよう、定着性及び法令違反の悪質性等の個別事情を厳正に判断するとともに、具体的な事例についてのガイドラインを作成し周知するなど、特に慎重な運用に努めること。

出入国在留管理庁は、この附帯決議を踏まえてガイドライン案を作成し、2026年8月4日に公表しました。

2. ガイドライン案の目的

出入国在留管理庁が公表したガイドライン案本文によれば、本ガイドラインは以下を目的としています。

  • 外国人及び関係者の予見可能性の確保
  • 処分の公平性の確保
  • 国又は地方公共団体の職員による入管庁への通報が適切になされること
  • 本制度が適切に運用されることによる、安全・安心な社会の構築

なお、ガイドライン案には「在留資格の取消事由に該当するかどうかは、個々の事案の具体的な状況に応じて判断されるものである上、仮に取消事由に該当するとしても、実際にその取消し等をするかどうかは、取消事由に該当することとなった経緯や、その後の在留状況等を踏まえて判断される」との留保が明記されています。

3. 取消しの対象となる事由:2つの号・3つの類型

ガイドライン案では、入管法第22条の4第1項第8号(2類型)・第9号(1類型)に基づき、取消事由が整理されています。

(1)入管法上の義務を遵守しないこと(8号)

対象となるのは、外国人が遵守すべき入管法上の義務のうち、罰則(入管法第9章)で担保されており、かつ退去強制事由(入管法第24条各号)には該当しないものです。具体的には、在留カードの携帯・提示義務(第23条)、在留カードの有効期間更新・再交付申請義務(第19条の11・第19条の12)などが挙げられています。

義務を「遵守せず」とは、これらの義務を履行しないことをいいますが、病気や災害など「正当な理由」がある場合は該当しません。一方で、過失による違反であっても取消事由には該当し得るとされています。

想定される事例としては、在留カードの有効期間更新・再交付申請の懈怠、携帯拒否・提示拒否、偽変造在留カードの行使未遂、不法入国者の蔵匿等の未遂(既遂の場合は退去強制事由に該当するため、取消事由としては未遂のみが対象)が挙げられています。ただし、ガイドライン案は**「一度の義務の不履行だけをもって在留資格を取り消すことは想定していません」**と明記しており、在留カード更新の失念や不注意による不携帯が一度あっただけで直ちに取消しにつながるものではない点は重要です。

(2)故意に公租公課の支払をしないこと(8号)

「公租」は租税全般(所得税・住民税・法人税・固定資産税等)、「公課」は租税以外の公的負担金(国民健康保険料・厚生年金保険料等)を指します。手数料・利用料や罰金・反則金はここでいう公租公課には含まれません。また、法人の経営・意思決定に実質的な影響力を持つ永住者が、その法人の公租公課をあえて支払わせない場合も対象になり得るとされています。

「故意に」とは、支払義務があると認識していながらあえて支払わない場合をいいます。該当するかどうかは、収入・資産状況、滞納の回数・額・期間、支払状況、滞納に至った経緯、その後の生活状況等を総合考慮して判断されます。

該当すると想定される事例:長期滞納かつ届出なく転居して所在不明、繰り返しの催告・滞納処分にも納付意思を示さない、分納・猶予の約束を繰り返し破る、脱税等で有罪判決、財産隠蔽等の不正な徴収妨害、法人代表者としてこれらに関与、など。

該当しないと想定される事例:病気・災害・失業などやむを得ない事情(事業不振、感染症流行、DV被害、ハラスメントによる離職なども例示)、催告に応じて分納・猶予を受けている場合、生活保護に準じた措置を受けている場合、給与から天引きされているのに勤務先が納付していない場合、など。

なお、滞納額そのものについて一律の基準は定められておらず、あくまで個々の事案の総合判断とされています。

(3)特定の刑罰法令違反により拘禁刑に処せられたこと(9号)

対象となる罪は、刑法の住居侵入・通貨偽造・文書偽造・賭博及び富くじ・殺人・傷害・逮捕及び監禁・略取誘拐及び人身売買・窃盗及び強盗・詐欺及び恐喝・盗品等関与の各罪のほか、暴力行為等処罰法、盗犯等防止法、特殊開錠用具所持禁止法、危険運転致死傷処罰法、盗難特定金属製物品処分防止法に規定する一定の罪に限定されており、いずれも故意犯が対象です。「拘禁刑に処せられたこと」は刑期の長短を問わず、執行猶予が付いた場合も含まれます。

4. 取消しではなく「職権変更」という選択肢

ガイドライン案が強調しているのは、取消事由に該当したからといって直ちに在留資格が取り消されるわけではないという点です。入管法第22条の6に基づき、「当該外国人が引き続き本邦に在留することが適当でないと認める場合」を除き、法務大臣が職権で「永住者」以外の在留資格へ変更を許可します(職権変更)。ガイドライン案によれば、ほとんどの場合「定住者」への変更が想定されており、その後の在留期間更新手続の中で、入管法上の義務の遵守状況や公租公課の支払状況が引き続き確認されることになります。なお、職権変更後に永住許可の要件を再び満たせば、改めて永住許可を受けることも可能とされています。

5. 通報の仕組み:誰が、どんなときに通報できるのか

入管法第62条の2により、国又は地方公共団体の職員が職務遂行の中で取消事由に該当すると思料する外国人を知ったときは、入管庁へ通報することができます。ガイドライン案によれば、この通報は義務ではなく任意であり、通報する者が必要かつ可能な範囲で情報を提供する仕組みです。この規定は、通報する職員の守秘義務を解除する法令上の根拠ともなっています。

通報の対象は、8号・9号については永住者に限られますが、入管法第22条の4第1項の他の取消事由(永住者以外にも適用され得るもの)については、永住者以外の在留資格を持つ者についても通報が可能とされています。

通報を受けた入国審査官・入国警備官は、当該外国人からの意見聴取等によって事実関係を正確に把握した上で取消事由の該当性を判断し、最終的に法務大臣が取消しの要否等を決定します。ガイドライン案は、通報があったことをもって直ちに取消事由に該当すると判断するものではないと明記しています。

6. 「取消し相当」となるのはどのような場合か

ガイドライン案第4では、各取消事由について「取消し相当」となる考え方が示されています。

  • 入管法上の義務違反:今後も義務を履行する意思がないことが明らかな場合、または義務違反の態様が社会通念上看過しがたい場合
  • 故意に公租公課の支払をしないこと:今後も支払う意思がないことが明らかな場合、または滞納額・期間・回数等が社会通念上看過しがたい場合
  • 特定の刑罰法令違反:過去の犯歴等から犯罪傾向が進んでいると認められる場合。具体的には、永住許可後(改正法施行前を含む)に拘禁刑の前科があり、さらに9号所定の罪により拘禁刑に処せられた場合などが想定されています

特に9号については、**「その刑の執行が猶予されたとしても、その在留状況は良好ではないと言わざるを得ず、初犯であっても職権変更とすることが想定される」**とされている点に注意が必要です。取消しには至らなくとも、9号該当の犯罪があれば「定住者」等への職権変更は行われ得るという考え方が示されています。

また、取消し相当と判断される場合であっても、家族関係や人道上の配慮の必要性がある場合には、取消しではなく職権変更にとどめることもあり得るとされています。

7. 意見募集(パブリックコメント)の実施状況

本ガイドライン案は、2026年8月4日にe-Govパブリック・コメントで公示され、同日12時0分から**2026年9月4日0時0分(実質9月3日必着)**まで意見が募集されます(案件番号315000141、所管:出入国在留管理庁在留管理課在留企画室)。この記事の公開時点では、ガイドラインはあくまで「案」の段階であり、意見募集の結果を踏まえて内容が変更される可能性がある点にご留意ください。

8. 企業・本人が今から意識しておきたいこと

ガイドライン案から読み取れるのは、単発の失念や一時的な事情による義務違反・滞納が直ちに取消しにつながるものではなく、「今後も履行・支払う意思がないことが明らか」「態様が社会通念上看過しがたい」といった、悪質性・継続性が問われる制度設計になっているという点です。

永住者を雇用する企業にとっては、給与天引きした社会保険料等を確実に納付することや、在留カードの適正な管理・更新手続きのサポートが重要になります。永住者本人にとっても、公租公課の滞納や入管法上の義務違反を放置せず、やむを得ない事情がある場合は早めに相談・分納等の手続きを取ることが、在留の安定につながると考えられます。

まとめ

永住者の在留資格に新たな取消事由が設けられた背景には、令和6年の入管法等改正(施行は原則令和9年4月1日)があります。今回公表されたガイドライン案は、その運用指針を明確化するものであり、①入管法上の義務違反、②故意の公租公課不払い、③特定の刑罰法令違反という3類型について、該当・非該当の具体的な考え方と想定事例を示しています。いずれも「悪質性・継続性」が問われる制度であり、取消しに至らない場合は「定住者」等への職権変更が原則となる設計です。ただし、あくまで意見募集中の「案」であり、確定した内容ではありません。今後の正式決定・詳細な運用については、出入国在留管理庁の公式発表を継続して確認する必要があります。